今月下旬の東京都行政書士会足立支部の業務研修にて、「行政書士のデジタル化」について講師としてお話しする機会をいただきました。
事前質問の人気のキーワードは「ChatGPT」だったのですが、その使い方についてあれこれ話すだけでは、私としてはあまり意味がないと考えています。
行政書士の業務の中で、デジタルの利活用をどのように行うか。何のために使うのか。誰がどうなればデジタル化といえるのか。
そうしたサイクルに入ったときは、まず「自分がやりたいことは何か?」を突き詰めるのが一番です。
前置きが長くなりましたが、私が今一番気になっているのは、「これからの建設業のちょうどいいデジタル化」です。
建設業のおかれている状況を今一度整理しながら、デジタル化できるのはどこか、探っていきたいと思います。
建設業の今
日本の建設業界は、相変わらず深刻な人手不足に直面しています。技能労働者の高齢化は進み、60歳以上が全体の約3割を占める一方、若手人材の確保は思うように進んでいません。さらに近年は台風や大雨による災害が相次ぎ、道路や住宅、インフラ復旧の現場には一層の迅速な対応力が求められています。
こうした状況を受けて、建設業法の大きな改正 が行われています。たとえば2024年12月の法改正の柱は、
- 担い手確保のための「働き方改革」
- 下請け取引の適正化による「資金繰り改善」
- IT活用を前提とした「生産性向上」
です。これは中小建設業にとって避けて通れない課題であり、今後の経営に直結するテーマといえます。
外国人雇用は不可欠な選択肢
建設現場を維持するために不可欠となっているのが 外国人労働者の雇用 です。技能実習や特定技能制度を通じて働く外国人はすでに全国で数万人規模に達し、日常の施工・災害復旧・インフラ整備を支えています。
ただし、外国人雇用には「在留資格手続き」「支援体制の整備」といった制度上のハードルがあり、中小企業が単独で対応するには限界があります。
そこで重要となるのは、 登録支援機関 の活用と、行政書士によるサポートです。
登録支援機関と行政書士の役割
特定技能人材を受け入れる企業は、外国人が安心して働けるよう生活・就労のサポートを提供する必要があります。その多くを代行できるのが登録支援機関です。
しかし、登録支援機関の設立や運営には複雑な書類と継続的な管理が必要です。
その点に対し、行政書士は以下のような支援を行うことができます。中小企業は制度面での負担を軽減し、安心して外国人雇用を進めることができます。
- 登録支援機関の新規申請・届出取次
- 特定技能所属機関に必要な契約・誓約書類の整備
- 外国人材受け入れ体制の構築支援
- 制度改正への迅速な対応
雇用に関する部分は制度も変わることが多く、デジタル化が入る余地があるにせよ、最後は「人と人」で行われる場面が多いのではないかと推測します。大きな理由としては、一人ひとりの置かれた現状というものは、100%一致しない固有(ユニーク)なものだからです。また、統計的に見た正解が、個人にとっての正解とは限らないという理由もあります。
デジタル化するのは決まりきったことや、人がしなくても良い部分。取りこぼすことを前提としてフロント部分をデジタル化し、イレギュラーパターンは人が対応する必要があるでしょう。こうした現場では士業をはじめとしたプロフェッショナルが活躍した方が良いと私は考えています。
今年、実際に登録支援機関向けの申請取次サービスを行っている 行政書士の吉野よしと先生のLP を作成させていただきました。
制度や支援内容が分かりやすくまとめられています。お困りの方はぜひこちらにアクセスしてください。
参考: 吉野行政書士事務所・登録支援機関サポートLP

働き方改革と生産性向上
それでは、建設業の大きな障壁となっている「働き方改革」と「生産性向上」は、デジタル化で幾分かの解決が図れるものなのか。
長時間労働の是正や休日確保が企業に強く求められ、残業規制を守るための勤怠管理は避けて通れません。また、下請け取引の適正化により、過度な値引きや不当な納期要求を是正し、代金支払いを適正化することが定められました。これは中小建設業にとって資金繰り改善につながる一方、適切な契約管理・業務管理を行わなければ対応できません。
つまり、「人手不足の補填」+「制度対応」+「現場業務の効率化」 が同時に求められているということです。
DXによる現場改善 ― アプリ活用の実例
前述の課題とデジタル化をどのように組み合わせ、建設業経営者様にとってどのようなプラスを生み出せるか。一生の課題となりそうです。
現段階では、行政書士業務に加えて、法人向けスマホアプリの開発・導入支援も行っています。
建設業者をはじめ多くの企業に提供させていただきました。今回は、そのアプリの一部の活用事例を紹介します。
- カメラアプリ
現場で撮影した写真に自動で名前を付け、サムネイルを表示。送信ボタン一つで社内クラウドに一括登録。
→ 安全書類や工事報告の写真管理がスムーズになり、報告書作成の時間を大幅削減。 - 勤怠・位置アプリ
勤怠ボタンを押すと出退勤時刻と位置情報を同時送信。
→ 複数現場を持つ企業でも労働時間を正確に把握でき、残業規制に即対応。 - 見積・請求書作成アプリ
建材情報を入力すれば概算見積を自動作成し、承認フローで確認。
→ 入力ミスを防ぎ、請求漏れや二重入力を削減。資金繰り改善にも直結。


これらの仕組みは、2024年改正で求められる 労務管理・取引適正化・生産性向上 に直結する取り組みです。また、日本語が不自由な外国人労働者にとっても、利用端末のスタンダード機能ですぐに翻訳が可能なため、悩む時間が削減されます。
時間をかけず導入できる、直感的な操作が可能なアプリ。就労支援ツールとしても有効活用していただいています。
まとめ ― 制度と現場を同時に支える
- 建設業の人手不足は深刻化し、外国人雇用は不可欠
- 2024年建設業法改正により、働き方改革・取引適正化・生産性向上が強く求められている
- 行政書士は登録支援機関の申請や制度対応を支援できる
- DX(アプリ活用)を組み合わせることで、現場改善と制度遵守を同時に実現できる
建設業を取り巻く制度は、これからも大きく変化していきます。2024年の建設業法改正に象徴されるように、働き方改革・取引の適正化・生産性向上は待ったなしの課題です。さらに、現行の技能実習制度も見直され、今後は 「育成就労制度」 へと移行する方向が示されています。これは人材の確保だけでなく、育成と定着を重視する新しい制度であり、中小建設業にとっても対応が欠かせません。
人手不足や災害対応という現場の厳しい状況を踏まえれば、外国人雇用の仕組みを整備することは避けて通れません。しかし、デジタル化はすべてを解決する魔法ではなく、あくまで「人と人とのやりとり」を補完する役割です。行政手続や申請といった決まりきった部分をデジタル化し、固有の事情に応じた判断や調整は人が担う。行政書士はその両者の懸け橋となり、制度と現場をつなぐ役割を果たします。
私は、建設業にとって “ちょうどいいデジタル化” を提供することを目指しています。アプリや仕組みで効率化できる部分は徹底して効率化し、イレギュラーな部分では士業や専門家が丁寧に支える。そのバランスこそが、これからの建設業に必要な姿勢であり、ひいては日本のインフラを支えていく力になると考えています。
建設業の許認可とデジタル化を一手に引き受ける、行政書士事務所ユアウィルのお問い合わせはこちら。
