遺言とデジタル化について

人が死後に残す意思や願いを伝えるための手段はいくつかありますが、主な方法は遺書と遺言です。それぞれの形式や法的な意味合いには違いがあります。自分の希望を叶えるためにはどのような内容を書き記しておくべきなのか。細かいことを一切合切記憶しておく必要はありません。ただ「もしかしたらこの書き方では、希望が叶わないかもしれない」ということを、頭の片隅に留めておいてください。

まずは遺書と遺言の違いから簡単に記載します。

  1. 遺書とは?
    遺書は一人の人間が自分の死後にどのように財産を分けるか、または自分の遺体をどのように扱うか等を指示する文書です。遺書は特定の形式を必要とせず、通常、書き手の私的な言葉で書かれます。また、後述の遺言とは異なり、手書きの文字ではなくても良いですし、ビデオレター形式にしても問題ありません。
  2. 遺言とは?
    遺言は遺言者が生前に述べる意志の表明で、死後に適用されます。民法上、遺言をするためには、同法が定める一定の方式に従うことが要求されます。(民法960条)

そして、遺言には3種類あります。

  • 自筆証書遺言: 3種類の遺言書の中でも、もっとも簡単に作成できる遺言の種類です。遺言者が遺言内容、日付、氏名を自筆し押印します。自筆なので、いつでも無料で作成することができますが、書式の間違いや紛失によって遺言の内容が無効になるリスクがあります。
  • 公正証書遺言: 遺言者が証人とともに公証役場に出向き、公証人に作成してもらう遺言です。専門家が作成するため、形式や内容の不備はなく安心です。また、原本は公証役場で保管されるため、紛失等のリスクを回避することができます。
  • 秘密証書遺言: 内容を第三者に知られることなく、遺言書を作成したという事実を公証人に証明してもらう遺言です。遺言者は遺言書を作成し封書に入れ、封をして公証人と証人に提出します。認証してもらった後は自分で保管をしなければなりません。

そしてここに、新たな形式が加わる可能性があります。それがデジタル遺言です。
近年の民法改正で、遺言とともに作成される財産目録についてはデジタルで良いとされました。目録も含めて全文自書だった以前より、かなり緩和されたように思います。
遺言は、依然として、本人の意思であることを確実に証明するために自筆であることが求められています。「目が悪いから」「手が動かないから」という理由で家族に代筆させる状況はいかにもありえそうですが、代筆を頼まれた家族の意思が紛れ込んでしまう可能性が否定できないため、専門家以外の代筆は容認されていません。

しかし昨今のデジタル技術を活用することで、自筆証書遺言と同程度の信頼性を確保することができるのであれば、遺言者の選択肢を増やす観点から、新たな方式を設けることはあり得るものと総務省で検討されているようです。デジタル遺言は便利さをもたらす一方で、新たな課題も提起します。考えられ得る問題に適切な対処を施すために、法的な見地から、またデジタルセキュリティの観点から慎重な論議が必要とされています。

上記の通り、デジタル遺言には課題もありますが、遺言者の選択肢を増やす可能性を秘めています。デジタル技術の進化によって信頼性を高めつつ、遺言者の意思を確実に証明する必要があると私は考えます。
適切な方法で個人の意思を尊重し、遺産を遺すことができるように法が整備されたときのために、これからも情報を追い続けたいと思います。