電車の広告やニュースのサムネイルなど、いたるところでAI画像が見られるようになりました。
街中で目に入った画像に対して「あっ、これはAIで描いているな」と気を取られてしまうのは、これまでの人生で作品に触れてきた経験によるものです。私でもそうなのですから、普段から多くの作品に触れる方々にとっては、より顕著なのではないでしょうか。
作品作りを生業としている方からしたら、状況によっては不快に感じたり、さらにはご自身の業務に影響したりする場合もあるでしょう。
たとえば

SNSに投稿したイラストを無断でAIに学習され、その学習した出力結果を自作品としてUPされてしまう

とか、そういったこともあるのではないでしょうか。

自分の作品を守りたい。
でもAIを阻害する要素を入れると完成した作品そのままではなくなるし、効果があるのかも分からない。
正直好きなことやっているだけなのに、どうして創作者側が対策のために心を砕かなければならないのか。
当事務所ではX(旧Twitter)で事務員さんが漫画を投稿していることもあり、創作者側の意見は至極真っ当なものに思えます。

今回は「何をやればAIの学習を阻害できるのか?」「今、著作権を取り巻く日本の法律はどのように動いているのか?」を調べ、その結果をまとめてみたいと思います。
なお、本取り組みで使用するAIはChatGPTです。

調査の進め方

①イラストを数種類用意する。
 種類は4つ。背景あり、背景一色、背景なし(透過)PNG、背景なし(透過)JPG 

②イラストに対してAI学習阻害のための対策を施し、結果をChatGPTに学習させた後、出力する。

③ChatGPTから出力された画像を比較し、学習されにくい加工を探す。

結果・気づき

①ノイズでは配色や細かな書き込みを誤認させることはできるが、太い線で描かれたメインの物体に対してはあまり効果がない。
②JPGよりもPNGでノイズ加工をしたほうが、AIの学習阻害がされやすく出力結果が崩れる。
③書き込みや背景が細かくなるほど、ノイズはイラストの一部として認識され、阻害されにくくなっていく。
④おすすめのAI学習阻害方法は「色相シフト散布」を施した「PNG」を使うこと。

結果として、画像を投稿する際はJPGよりもPNGで行ったほうがAI学習を阻害できることがわかりました。しかし、やはり完全な学習阻害は難しいようです。
理由はいくつかあります。
まず一つ目、「画像自体にAI学習を阻害する処理を加えても、ユーザーの端末から画面キャプチャを取ったり、トリミングをしたり出来る」から。
そして二つ目、「SNS上に作品をアップロードすると自動的にJPG画像に変換されることがある」から。サーバー不可を下げるた目だと思いますが、たとえばX の Developer Platform(以前の Twitter API)では、アップロード後に JPEG 変換されていることを暗示する例が示されていました。
他にも、学習阻害のための工夫が無効化される場面はかなり多いと思います。

完全無欠な守り方はできないことは分かったうえで、行政書士ができることは何かを考えた時、「無断利用や侵害があった場合に“実務的な導線”を確保する」ことに尽きると思います。
この後は実際の調査の過程を記載しています。上記の結果を知っていただいたうえで、興味がある方はぜひご笑覧ください!

「そもそもPNGとJPGとは何か?」が気になる人はこちらをクリック

実験詳細

用意した画像はこちら。
※必要に応じてJPGとPNGを使い分けます。

①背景透過・JPG

③背景一色カラー・JPG
②背景透過・PNG

④背景あり・JPG

まずはAIに普通の状態のイラストを読みこませて出力します。

プロンプトは下記に統一。
「添付画像を読み込み、同じ画風で女の子のイラストを出力してください。」

学習阻害のためのノイズをかけていなくても、違いが出ましたね。
【背景白、JPG】精度の高い学習結果。デザインや配色もほとんどそのまま。
【背景透過、PNG】元画像は背景が透過されていますが、出力後は黒背景に。髪の毛のお団子も消えてしまいました。
【背景水色、PNG】同じPNGでも背景透過より精度が高いです。髪の毛のお団子が生きています。
【背景 森、PNG】背景が複雑な場合、女の子が全体的に少し小麦色になり元気な印象になりました。

ChatGPTでゼロからイラストを出力する際にセピアがかった色になってしまうという声をよく聞きます。これは私の推測なのですが、ChatGPTは「あたたかい色合いで描くこと」が学習内容として蓄積されている可能性が高いのではないかと思います。【背景 森、PNG】がよりイラストチックになるようにChatGPTが出力したのでしょう。

AI学習阻害用のセキュリティを画像につけてみる

画面に特有の加工を加えるツールを作成しました。HTMLとJavaScriptで動作します。(ローカル単体でも動きます)
左側にイラストをアップロードしたら、中央でノイズを選択して追加。
右側に加工された結果が表示され、その画像をPNGまたはJPGで保存することができます。

それでは一つずつ試していきましょう!

1. 周期ノイズ(格子/サイン波)

  • 輝度に周期的な波をほんの少し重ねる。
  • 効果:AIは画像全体に「縞模様」があると誤学習 → 生成時に妙なモアレが出やすい。
  • 人間の見え方:単色背景だと拡大してようやく見える程度。

※周期ノイズ(格子・サイン波)は、PNG→PNGの変換のみ有効となり、JPG変換では反映されません。理由は以下の通りです。
PNG は可逆圧縮
 画素の階調(0〜255)がそのまま保存されるため、±1〜2階調の微細なノイズでも保持されます。
JPEG は非可逆圧縮
 保存時にブロックごとの周波数成分に量子化がかかり、微細な高周波(格子・サイン波の縞模様)は「圧縮ゴミ」とみなされ消えてしまいます
 とくに ±1〜2階調程度の周期ノイズは真っ先に失われます。

上記の理由から、周期ノイズはPNGからPNGに変換したものをAIに学習させ、出力してもらいます。
ちなみにうっすらと周期ノイズ(心電図みたいな波線)があるようなのですが、拡大しても肉眼ではほぼわかりません。

◀ノイズがかかった画像。何もわからない・・・

出力結果

色に大きな違いが出ましたね!わかりやすいのは髪の色でしょうか。
左側にかかっているノイズは人間の目で見るとあまりわかりませんが、AIの学習阻害には一定の効果があると言ってよさそうです。


2. 色相シフト散布

  • ランダムに小領域の色相を±数度ずらす。
  • 効果:AIは「黄色=青っぽい成分を含む」と学習 → 出力色が狂う。
    • 色相(Hue)は HSL/HSV で 0°=赤、120°=緑、240°=青、とぐるっと輪になっています。
    • シフト処理では、元の色相値に±数度のランダム値を加算します。
    • たとえば「青(240°前後)」に対して +10° ずつずらすと、色相環的には「青に赤みが混ざった紫寄りの色」になります。
    • AIは「青い領域に赤の成分が必ず含まれている」と学習してしまうため、再現時に“妙に赤っぽい青”を出すようになる可能性が高まります。
  • 人間の見え方:高彩度の面でじっと見れば「色むら」があるかも?くらい。

こちらも微細な変化のためPNG→PNGの変換が良いです。
ちなみに背景(ブルー)を拡大するとうっすらとピンクの点が肉眼でも確認できます。

◀なんだか画質の悪い画像のような点々が。

出力結果

かなり揺らぎがあるのがわかります。配色だけでなく、髪型や服装等にも統一感がなくなってきました。
出力結果の表情も、3パターンで全く異なります。


3. 擬似文字ノイズ

  • 「do-not-train」などの文字列を1〜2pxサイズで全面にタイル描画。
  • 効果:OCRやマルチモーダルAIが拾ってしまい、出力に不要な文字列や崩れが混ざる。
  • 人間の見え方:粒ノイズっぽい。拡大しないと文字とわからない。

これはかなり見えやすいノイズです。(肉眼ではどれだけ拡大しても文字には見えず、ストライプのようになっています)
JPGで試してみましょう!

全体的に絵柄が変わりました。どの子が好みかと聞かれると分かれるような気がしますが、個人的に真ん中の子は随分かわいく精巧に出力されました。
背景水色のものはノイズがそのまま出る結果となり、森背景は緑の彩度が落ちました。


4. 周波数ノイズ(Fourier領域)

  • 特定の周波数帯に強調ピークを入れる。
  • 効果:AIがパターンを拾ってしまい、背景や質感に不自然な縞模様が出る。
  • 人間の見え方:広い平面やグラデーションで、モアレのように見える。

こちらも変化がわかりやすいため、JPGにて比較していきます。

背景が淡色の場合、ノイズも一緒に出力していることがわかります。ノイズというより模様と捉えられているようです。
逆に言うと、背景が書き込まれている場合は色の揺らぎはイラストの作風として捉えられ、ノイズとして出力されないことがわかりました。その代わり、メインの女の子の作風は他と比べるとかなり違うように見えます。


透過サインをイラスト全体に散布する

これは透過して薄くしたサイン文字や日付のテキストを、イラスト全体に散布させる方法です。
「学習禁止」などの文字を入れておけば学習が阻害されるのかと思いきや、文字だけでは学習阻害に対する効果は薄いことが分かりました。
透過サインはあくまで「利用規約や権利主張を補強する著作者のための視覚的ラベル」として、「人間が確認できるレベル」で使用することが大切です。
このツールではサインの透明度も選択できるので、自分が設定した強さで書き出しが行えます。

自分のイラストをAI学習から守るための手法と、日本の著作権法のいま

読み込ませた画像に対して一切の学習を禁止するための手法は見つけられませんでしたが、「色相シフト散布」を施した「PNG」画像は元の画像とはかなり違うものになりました。現時点では、いずれかのノイズを適用&透過サインの追加 を行うことで、AIによる学習の阻害&AI学習行為の禁止を明言という方法が現実的なようです。自分の作品であるという証拠のための署名(orハッシュキー)+タイムスタンプ+学習拒否を入れておくことで、万が一の場合にプラットフォーム側に対する実務的な導線を用意しておくことが理にかなっています。
もし上記のツールを「自分の絵でも試してみたい!」という方がいらっしゃいましたら、当事務所のお問い合わせにてご連絡ください。
(こちらのツールはネットワーク上にイラストをアップロードするものではなく、ローカルで作業できるのでご安心ください!)

私個人としては、素晴らしい作品を世の中に公開してくれる著作者が、悲しい思いをするようなケースがなくなってほしいと考えています。たとえば今回ご紹介したツールを使って第三者による作品の盗用を防ぐことができれば嬉しいですが、根本はそこではありません。
AIの学習(開発)段階が原則として著作権法30条の4(柔軟な権利制限)で許容されている今、ネット上に公開した作品を無断でダウンロードしたり、スクリーンショットやトリミングを使ったりして、その作風を自分勝手に利用する第三者がいることが問題です。
もちろん、「享受(鑑賞・視聴)」目的が併存する利用や、権利者の利益を不当に害する場合は除外(たとえば情報解析用の有償DBを勝手に学習用に複製する等)となっていますが、出力結果の違法性判断は、最終的に各事案での「依拠性+実質的類似」などの総合判断となります。詳細は文化庁の指針をご確認ください。

AI自体は便利なツールです。しかし、それが新たな作品作りの際の足枷になってしまわないよう、そして作品を作る著作権者に寄り添う気持ちを持ち続けるようにしなければいけません。
2024年の通常国会において、プロバイダ責任制限法は「情報流通プラットフォーム対処法」へと改正する法律案が可決、今年の令和7年4月に施行されました。本法で削除申出の見える化が進み、そして文化庁もAIと著作権の考え方を整理し続けています。
私たち行政書士も、作品を守る行動を実務で後押しできたらと考えています。