このたび、城南エキスパート勉強会 Vol.46(会場:星陵会館 4階 多目的ホール)にて、
「業務プロセスのDX化 ― 個人情報分野・知的財産分野に関する昨今の法制度などをふまえて」と題し、登壇の機会をいただきました。
お声がけくださった主催者の皆さま、足をお運びくださった皆さまに、まずは心より御礼申し上げます。


なぜ「行政書士の私」が、いまこの話をするのか
士業のなかで、事業者の業務プロセスにもっとも近い距離にあるのが行政書士と考えています。
許認可と補助金の窓口は、そのまま中小企業のDXの起点になります。
建設業許可、産廃、酒販、入管、補助金申請 ― 事業者が制度に触れる最初の接点に、私たち行政書士は立っています。
だからこそ、生成AIをめぐる新しい論点を、現場の言葉で整理してお伝えする意味があると考え、今回のテーマを設定しました。

Ⅰ. AIのトレンド ― いま、何が起きているか
「人工知能」という言葉が生まれてから70年。70年の研究が、ここ3年で一気に実装に届いた、というのが現在地です。
ChatGPTは公開からわずか2か月で1億ユーザーに到達し、2025年末時点で週間アクティブユーザーは8億人超。
企業向け有料契約数は100万社を超え、日本国内でも個人利用率は約30%に達しています。
書面の下書き、契約レビュー、調査・リサーチ、要約と翻訳 ― 士業の実務に直結する領域で、AIはもはや「試してみる」段階を過ぎつつあります。
2026年のいま、士業に問われているのは「AIを使うかどうか」ではなく、「どう使えば品位と責任を保てるか」です。顧客の期待値、競合の生産性、事務所内の待遇格差。三方向から、選択の余地は閉じつつあります。

Ⅱ. セキュリティと法律 ― 便利さの隣に並ぶ論点
便利さの裏側には、すでに国内外で実例が積み上がっています。
米国では弁護士が生成AIの「架空判例」を法廷に提出して制裁を受け(Mata v. Avianca事件)、
韓国ではSamsungが社内ChatGPT利用による機密ソースコード漏洩を経験しました。
オーストラリアでは現職市長がAI出力により名誉毀損被害を受け、中国では生成AI画像の著作権侵害が司法判断で認定されています。
これらの事案から共通して見えてくるのは、「どこに情報を入れるか」で結果が大きく変わるという事実です。
個人プラン(無料・一般版)と、法人プラン・APIでは、情報の扱いがまったく異なります。
学習されない契約形態を選び、監査ログ・利用範囲・保持期間を設計できる環境を整えることが、専門家にとっての出発点になります。

そのうえで、事務所として持つべき三つの原則をお話ししました。
- 原則 ― 顧客の生情報を学習側に置かない
- 手当 ― マスキング・分離・同意取得をプロセス化する
- 記録 ― 誰が・何を・どのモデルで処理したかを残す
この三本柱を運用に落とし込むことが、セキュリティの管理策とも整合します。
「新しい問題」ではなく、「新しい入力経路」として扱う
生成AIをめぐる法的論点の多くは、まったく新しい問題ではありません。
個人情報保護法の第三者提供(27条)
・委託の判定、著作権法30条の4と類似性
・依拠性、各士業法の業務独占規定
既存制度の解釈を、AIという新しい入力経路に丁寧に当てはめ直す作業です。
本講演では、AIに入力する前に立てる「5つの問い」(個人情報を含むか/利用目的の範囲内か/渡す先は委託か第三者提供か/越境移転か/ログは残せるか)を、フローチャート形式でご紹介しました。

エキスパート・イン・ザ・ループ
最後にお伝えしたのは、「下書きはAI、判断と署名は人間」という業務設計の考え方です。
AIは速度を上げる装置であり、責任を移す装置ではありません。説明責任は、ループの内側にいる専門家が必ず持つ。
これを前提に事務所の標準を整えることが、これからの士業の生き残り戦略につながると考えています。

持ち帰っていただきたい、3つのことと1つの問い
- AI活用は、もう前提条件である
- 情報を入力する状態で決まる
- エキスパート・イン・ザ・ループ
そして、最後に会場に投げかけた問いは、こちらでした。
あなたの事務所が「AIを使ったうえで品位を保っている」と、顧客に対してどう説明できますか?
おわりに
ご来場いただいた皆さま、温かいご質問とご感想を本当にありがとうございました。
会場でいただいた論点は、書籍にも反映してまいります。
2026年中には、本テーマを士業全体に広げる書籍を、日本法令様より刊行予定です(仮題『生成AI時代の士業事務所経営と生き残り戦略』)。
こちらの書籍は主催している士業勉強会ナレッジクロスのメンバーと共著で出させていただくものです。
続報は、当サイトと note「エンジニア行政書士の共有ノート」にて随時お知らせいたします。
許認可・補助金・DX認定など、業務プロセスのデジタル化に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。